まず結論:家で練習し、「何もされない病院」をつくる
病院の前で足をふんばる、待合室で震える、診察台で暴れる。動物病院が苦手な子は少なくありません。においも音も知らない動物も、体をおさえられることも、犬にとってはこわいことが一度に起きる場所だからです。
慣らし方の要点は次のとおりです。
- どこからこわがるかを見る。 車に乗ったときか、病院の前か、待合室か、診察台か。こわくなる場面の少し手前から練習を始めます
- 家で「体をさわられる練習」をする。 耳・口・足先・おなかを、1〜2秒さわってごほうび。嫌がる前にやめるのがコツです
- 診察のない日に病院へ行き、楽しいことだけして帰る。 体重計に乗ってほめられる、受付でおやつをもらう、など。必ず先に病院に電話して許可をもらいます
- 当日は、待つ時間とこわいものとの距離を減らす。 空いている時間に行く、車で待てるか聞く、すみの席でキャリーにタオルをかける
- 無理に慣れさせない。 こわい経験を重ねると、もっと苦手になりやすいと言われています
まずは今日、家で「足先に1秒さわっておやつ」から始めてみてください。そして、かかりつけに「練習で寄ってもいい時間」を電話で聞きましょう。
どこからこわがる?場面ごとの始め方
苦手の理由は犬によって違います。次の診察のとき、どこで様子が変わるかを見ておくと、練習する場所が決まります。
| こわがり始める場面 | 先に練習すること |
|---|---|
| キャリーを出しただけで逃げる | キャリーを「自分の部屋」にする練習 |
| 車に乗ると震える・よだれが出る | 止まった車でおやつ、から少しずつ |
| 病院の前で動かなくなる | 診察のない日に、病院の前でおやつを食べて帰る |
| 待合室で吠える・震える | 待つ時間を短くする。車で待つ、すみの席に座る |
| 診察台に乗ると暴れる | 家で、台の上で体をさわられる練習 |
| 口や耳、足先をさわると怒る | 家で、その場所に1秒ふれてごほうび、から |
どれか1つではなく、いくつも重なっていることもあります。その場合は、いちばん手前の場面(家を出るところ)から順に練習すると、前に進みやすくなります。
こわがっているサイン
犬は「こわい」を体で伝えます。一般に、次のような様子はこわがっているサインと言われます。
- しっぽを足の間に巻きこむ、体を低くする
- 耳をうしろに倒す、白目が見える
- 口をなめる、あくびをくり返す
- 震える、息が荒くなる
- 飼い主のうしろにかくれる、出口へ引っぱる
- うなる、歯を見せる
うなる・歯を見せるのは「これ以上近づかないで」という、かなりあとのほうのサインです。叱るより、そこまでがまんさせてしまったと考えて、次からはもっと手前のサインで休ませてあげましょう。サインの出方には個体差があるので、わが子の場合を知っておくと練習の目安になります。
家でできる練習
体をさわられる練習
病院では、耳・目・口の中・足先・おなか・おしりなどをさわられます。犬が落ち着いているときに、少しずつさわってごほうびをあげます。
| 段階 | やること | 次に進む目安 |
|---|---|---|
| 1 | 肩や背中など、好きな場所をなでてごほうび | 自分から寄ってくる |
| 2 | 耳・足先に1秒ふれてごほうび | ふれても体がかたくならない |
| 3 | 耳の中をのぞく、口を少し開ける、足の指を広げる | 2〜3秒ならリラックスしている |
| 4 | 机やいすの上に乗せて、同じことをする | 高い場所でも落ち着いている |
| 5 | 家族以外の人に、同じことをしてもらう | 知らない人でも嫌がらない |
1回は数分で十分です。嫌がる前にやめるのがいちばんのコツで、嫌がってからやめると「嫌がればやめてもらえる」と覚えてしまうことがあります。段階が進まないときは、1つ前に戻ります。
軽くささえられる練習
診察では、看護師さんが体をささえることがあります。犬の体に腕をそっと回して1〜2秒ささえ、すぐ放してごほうび、をくり返します。少しずつ時間をのばしていきます。
口輪に慣らしておく
かむおそれがある子は、病院の人と犬自身の安全のために、診察で口輪を使うことがあります。いきなりつけられるのは犬にとってこわいので、家で慣らしておくと負担を減らせます。
- 口輪を見せておやつ、を何回か
- 口輪の中におやつを入れて、自分から鼻を入れたらほめる
- 1秒だけ留め具をとめて、すぐ外してごほうび
どの形が合うかは、かかりつけで相談してください。
キャリーと車
「キャリー=病院」「車=病院」と覚えている子は、出かける前からこわがります。ふだんからキャリーを部屋に出しておき、中でごはんを食べる、止まった車に乗っておやつ、など、病院と関係ない時間をたくさんつくります。
キャリーの慣らし方は、段階ごとに別の記事でくわしくまとめています。
車に酔いやすい子については、どうすればよいか動物病院に相談してください。
病院そのものに慣れる練習
「何もされない病院」をつくる
病院に行くたびに注射をされていたら、病院が嫌いになるのは自然なことです。そこで、診察のない日に病院へ行き、楽しいことだけして帰る練習をすすめる獣医師やトレーナーがいます。
- 病院の前まで行って、おやつを食べて帰る
- 中に入って、受付の人にあいさつして帰る
- 体重計に乗って、ほめられて帰る
- 診察台に乗って、なでてもらって帰る(病院がよいと言ったときだけ)
ただし、病院は具合の悪い動物が来る場所です。必ず先に電話して、来てよい時間と、してよいことを聞いてからにしましょう。混む時間や、うつる病気の動物が来ている日は断られることもあります。
電話では、あわせて次のことを聞いておくと当日が楽になります。
- 空いていることが多い時間帯
- 受付だけして、車で待てるか(順番が来たら電話で呼んでもらえるか)
- 犬と猫の待合が分かれているか
最初の電話で聞くことや、そのまま使える聞き方の例は、こちらにまとめています。
当日:待合室と診察室での過ごし方
待合室で
待つ時間が短いほど、犬の負担は小さくなります。予約制の病院なら予約をとり、順番制なら、空いている時間を受付で聞いておきます。
| 場面 | すること |
|---|---|
| 待つ場所 | 車や外で待てるか受付で聞く。中なら入口やほかの動物から離れたすみの席 |
| リード | 短く持ち、ほかの犬に近づけない |
| 小型犬 | 抱っこか、キャリーに入れたまま。キャリーにタオルをかけて目かくしに |
| ほかの動物 | 自分からあいさつに行かない。相手も具合が悪いかもしれない |
| 落ち着いているとき | 小さな声でほめて、おやつ |
| こわがるサインが出たら | 受付に声をかけて、外で待つ |
待合室にいる、ほかの飼い主さんの犬や猫にはさわらないようにしましょう。猫やうさぎ、鳥を診ている病院では、犬が吠えるとほかの動物にもこわい思いをさせてしまいます。吠えやすい子は、待つ場所を受付に相談してください。
診察室で
- 苦手なことを先に伝える。 「口をさわると怒ります」「足先を嫌がります」と伝えると、病院も準備ができます
- 好きなおやつを持っていく。 体重計や診察台に乗ったときにあげます(検査で食事を止める日は、先に病院に聞きます)
- 飼い主は落ち着いた声で。 飼い主がどきどきしていると、犬にも伝わると言われます
- そばにいるか、外で待つかは相談する。 飼い主がいると落ち着く子も、いないほうがおとなしい子もいます
- 帰ったら、家でたくさんほめる。 帰りにお気に入りの散歩道を通るのもよい方法です
とても強くこわがる子には、日を分けて少しずつ診る、通院の前に薬を使う、などの方法を案内する病院もあります。どれが合うかは犬の体の状態によるので、かかりつけの獣医師と相談して決めてください。
犬のタイプ別に気をつけること
- 子犬:はじめての病院の印象が、その後を左右しやすい時期です。ワクチンなどで通うたびに、ごほうびと声かけで「いやなことだけではない場所」にしていきます。外を歩かせてよい時期は病院で聞いてください。ほかの経験も含めた慣らし方は社会化期にやっておきたいことにまとめています
- 保護犬・大人になってから迎えた犬:前の経験がわからないことがあります。家でどこをさわると嫌がるかを確かめ、最初の受診で病院に伝えましょう
- シニア犬:前は平気だったのに急にさわられるのを嫌がるようになったときは、練習より先に病院に相談してください
- 大型犬:抱っこやキャリーで運べないので、車から病院の入口まで歩く練習、体重計に乗る練習を家や外でしておくと当日が楽になります
- トリミングも苦手な子:体をさわられる練習は、トリミングにもそのまま役立ちます。トリミングを嫌がる子の慣らし方もあわせてどうぞ
予防注射の時期は混みやすい
狂犬病予防法では、生後91日以上の犬に、毎年1回、狂犬病の予防注射を受けさせることになっています。これまでは毎年4〜6月が注射の時期とされていたため、この時期の病院は混みやすくなっていました。
神戸市の案内によると、2027年3月2日から、4〜6月という時期の決まりがなくなり、1年中いつでも受けられるようになります。ただし、間があきすぎないよう、これまでどおり毎年同じころに受けるよう求められています。苦手な子は、空いている時期に受けられないか、かかりつけに相談してみましょう。
通いやすい病院を探すときは、こちらから。かかりつけの決め方は動物病院の選び方にまとめています。
体をさわられる練習やキャリーの練習は、しつけ教室やトレーナーに相談することもできます。こわがりの子のペースに合わせてくれる教室を選びましょう。
よくある質問
Q病院の前で動かなくなります。抱っこして入ってもいいですか?
小型犬なら、抱っこやキャリーで入るのも一つの方法です。ただ、こわいまま毎回入ると苦手が強くなりやすいので、診察のない日に「病院の前でおやつを食べて帰る」練習もあわせてするのがおすすめです。
Q待合室で吠えてしまいます。どうすればいいですか?
受付だけして、車や外で待てないか聞いてみましょう。中で待つときは、ほかの動物から離れたすみの席に座り、小型犬ならキャリーにタオルをかけて目かくしをすると落ち着く子もいます。
Q練習のために、診察がない日に病院に行ってもいいですか?
病院によります。具合の悪い動物が来る場所なので、必ず先に電話して、来てよい時間としてよいことを聞いてからにしましょう。
Q慣れるまでにどのくらいかかりますか?
犬によって大きく違います。日にちより、「前の段階で落ち着いていられるか」を目安にして、1つずつ進めてください。うまくいかないときは1つ前の段階に戻ります。
Q口輪をつけるのはかわいそうではありませんか?
口輪は、かむおそれがある子と、まわりの人の安全を守るための道具です。家でおやつを使って慣らしておくと、病院でつけるときの負担を減らせます。どの形が合うかは病院で相談しましょう。
Qこわがりがひどく、診察ができません。
日を分けて少しずつ診る、通院前に薬を使う、などの方法を案内する病院もあります。どれが合うかは犬の体の状態によるので、かかりつけの獣医師と相談してください。
参考にした情報
- 厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html
- 神戸市「狂犬病予防注射の制度が変わります(2027年3月2日から)」 https://www.city.kobe.lg.jp/a84140/kyokenbyo20270302.html
- 犬ふぁん 施設データの集計(動物病院のうち、曜日ごとの診療時間がわかる693院。2026年10月10日時点)
(いずれも2026年10月に確認)
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