まず結論:「キャリー=いいことがある場所」と覚えてもらう
キャリーに慣らすいちばんのコツは、キャリーに入るといいことがあると犬に覚えてもらうことです。いきなり入れて扉を閉めたり、病院に行く日だけ出してきたりすると、「キャリー=こわいこと」と結びつきやすくなります。
進め方は、次の6段階です。
- 部屋に置きっぱなしにする(入れようとしない)
- 入口から奥へ、おやつで誘う
- 中でごはんを食べる・くつろぐ
- 食べている間に扉を閉め、すぐ開ける(少しずつ長く)
- 持ち上げる・家の中を歩く
- 外に出る(玄関→近所→乗り物)
ひとつの段階がうまくできたら次へ。いやがるそぶりが出たら、ひとつ前に戻ります。1回の練習は数分で十分です。
環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」にも、ケージなどに入るのを嫌がらないよう日ごろから慣らしておくことが、犬の備えとして挙げられています。電車、動物病院、避難のどれにも役立つ練習です。
| 目的 | キャリーに慣れていると楽になること |
|---|---|
| 電車 | JR東日本などでは、全身が入って顔が出ないケースに入れることが乗る条件 |
| 動物病院 | 待合室でほかの動物と距離をとれる。診察まで落ち着いて待ちやすい |
| 避難 | 避難所では、ペットはケージで過ごす形が多い(横浜市の例など) |
| 車・旅行 | 走っている間に動き回らず、宿でも寝床になる |
この記事は「慣らし方」の記事です。電車・飛行機の条件に合うキャリーの選び方は、「犬のキャリーバッグの選び方」の記事でくわしく書いています。
始める前に:キャリーと練習の準備
大きさは「中で向きを変えて伏せられる」
練習に使うキャリーは、犬が中で立つ、向きを変える、伏せることができる大きさにします。きゅうくつすぎると、それだけで入りたがらなくなります。電車に乗る予定があるなら、最初から条件(JR東日本ならタテ・ヨコ・高さの合計120cm以内、ケースと犬で10kg以内)に合うものを選んでおくと、練習したキャリーをそのまま使えます。
用意するもの
- 使い慣れたタオルや毛布:においがついたものを中に敷く
- 小さく切ったおやつ:ふだんより少し特別なもの。1回分は小さく
- 長持ちするおやつやおもちゃ:中で過ごす時間をのばす段階で使う
- いつものごはん:中で食べさせる練習に使う
練習のルール
- 無理に押しこまない:一度こわい思いをすると、やり直しに時間がかかります
- 短く終わる:犬がまだやりたそうなうちにやめる
- 鳴いているときに開けない:「鳴けば出られる」と覚えることがあります。静かになった瞬間に開けます
- 家族でやり方をそろえる:合図の言葉(「ハウス」など)やほめ方を同じにする
慣らし方の6ステップ
環境省のガイドラインには、おやつでケージの入口から奥へ誘い、中で食べさせ、慣れたら食べている間に扉を閉め、閉める時間を少しずつ長くしていく練習が、絵つきで紹介されています。その流れに沿って、犬向けに細かく分けました。
ステップ1:部屋に置きっぱなしにする
キャリーの扉を外すか、開けたまま固定して、犬がよくいる部屋に置きます。中には使い慣れたタオルを敷きます。
この段階では、犬を入れようとしないのがポイントです。においをかいだり、近くで寝たりしたら、静かにほめるだけ。「部屋にある家具のひとつ」になるまで、数日おいてもかまいません。
ステップ2:入口から奥へ、おやつで誘う
キャリーの入口の近くにおやつを置き、自分から近づいたらほめます。慣れてきたら、おやつを少しずつ奥へ。前足だけ入る→体の半分→全身、と段階をふみます。
自分から全身が入れたら、たくさんほめましょう。すぐ出てきてもかまいません。「出入りは自由」と感じられることが、次の段階につながります。
ステップ3:中でごはんを食べる・くつろぐ
ごはんの器をキャリーの中に置いて、中で食べさせます。毎日のごはんの時間がそのまま練習になるので、続けやすい方法です。
中で食べられるようになったら、長持ちするおやつやおもちゃを中で与え、中で過ごす時間を少しずつのばします。中で伏せたり、自分から入って寝たりするようになれば、かなり慣れてきた合図です。
ステップ4:扉を閉める
中で食べている間に、扉をそっと閉め、すぐ開けます。環境省のガイドラインでも、扉は静かに閉め、食べ終わる前に開けて「閉じこめられた」と思わせないようにすることが書かれています。
閉める時間は、数秒→10秒→30秒→1分→数分と、少しずつのばします。扉を開けるのは、犬が落ち着いているときに。鳴き出したら、閉める時間が長すぎた合図です。次の回は短く戻します。
ステップ5:持ち上げる・家の中を歩く
扉を閉めた状態で、キャリーを少しだけ持ち上げて、すぐ下ろします。慣れたら、持ったまま部屋の中を歩き、別の部屋まで運んでみます。
揺れは犬にとって大きな不安のもとです。両手で底を支える、体に寄せて水平に持つなど、揺れの少ない持ち方を練習しておきましょう。キャリーを置くときも、そっと下ろします。
ステップ6:外に出る
玄関の外、家のまわり、近所の公園、と少しずつ範囲を広げます。最初は人や車の少ない時間を選びます。帰ってきたら、キャリーから出しておやつ。「外に出ても、ちゃんといいことがある」と覚えてもらいます。
進み方の目安
| ステップ | できたら次へ進む目安 |
|---|---|
| 1 置きっぱなし | キャリーの近くでふつうに過ごせる |
| 2 おやつで誘う | 自分から全身が中に入れる |
| 3 中で食べる | 中でごはんを最後まで食べる。中で伏せる |
| 4 扉を閉める | 扉を閉めて数分、静かにしていられる |
| 5 持ち上げる | 持って家の中を歩いても落ち着いている |
| 6 外に出る | 近所を回って帰ってきても、また自分から入れる |
どのくらいで進むかは、犬によってかなり違います。数日で平気になる子もいれば、何週間もかかる子もいます。
目的別の仕上げ練習
電車に乗るための練習
- 駅の近くで、キャリーに入ったまま人の多さやアナウンス、電車の音に慣らす
- はじめての乗車は、空いている時間に1駅だけ
- 乗っている間はキャリーから出さない。顔も出さない
- JR東日本では、改札で駅係員にキャリーを見せ、手回り品きっぷ(1個290円)を買う。この受付に時間がかかることもあるので、時間に余裕をもって
スリングやカートから顔が出ている状態、抱っこしただけの状態では、JR東日本の電車には乗れません。ほかの鉄道会社やバスは条件が違うので、乗る前に各社のページで確かめてください。
車に乗るための練習
- エンジンをかけない車の中で、キャリーに入っておやつ
- エンジンをかけるだけ→家のまわりを1周→少し遠くへ、と少しずつのばす
- 走っている間はキャリーをシートベルトなどで固定し、急ブレーキで動かないようにする
- 車内に犬だけを残さない。とくに暑い時期は短い時間でも車内が高温になる
動物病院に行くための練習
- 病院に行く日以外にも、キャリーでおでかけする:「キャリー=病院」と結びつけないため
- 待合室では、キャリーの上からタオルをかける:まわりが見えないほうが落ち着く子もいます
- 上が開くキャリーなら、出し入れがスムーズ:診察台の上で無理に引っぱり出さずにすみます
- 帰ったら、キャリーの中でごほうび:最後をいい思い出で終える
避難のための練習
- 扉を閉めたキャリーやケージの中で、静かに過ごせる時間を少しずつのばす(避難所ではケージで過ごす時間が長くなりやすい)
- 家族の誰でも、キャリーに入れて運べるようにしておく
- 夜や暗い場所、知らない人の声がする場所でも落ち着けるか、ふだんの外出で確かめておく
- キャリーの中のタオルは、においのついたものを持ち出し袋にも1枚入れておく
犬ふぁんのデータで見る:病院の練習に行きやすい時間
「キャリー=病院」の結びつきを薄めるには、診察の予定がない日にキャリーで病院の前まで行き、おやつをあげて帰ってくる、という練習のしかたもあります。待合室まで入ってよいか、練習のための立ち寄りを受け入れているかは病院ごとに違います。行く前に必ず病院に確かめ、混んでいる時間はさけましょう。
その計画を立てるときに役立つのが、病院の開いている時間です。犬ふぁんに載っている動物病院のうち、曜日ごとの診療時間がわかる693院を集計しました(2026年10月10日時点)。
| 診療時間の傾向 | 割合(n=693) |
|---|---|
| 昼休みがある | 90.8% |
| 土曜に診療している | 96.2% |
| 日曜に診療している | 74.0% |
| 20時以降まで診療している | 19.3% |
この数字をもとに、近くで探す
- 昼休みがある病院が90.8%:昼休みの前後は、受付が混みやすい時間です。練習で立ち寄るなら、病院に空いている時間を聞いてみましょう
- 土曜は96.2%が診療:土曜は通いやすい反面、混みやすい曜日です。待合室の練習には向かないこともあります
- 開く時間は9時台が81.4%、閉まる時間は19時台が61.2%:仕事帰りに寄れる病院は限られます
この集計は、犬ふぁんが集めた名簿の範囲のもので、693院のうち420院が東京都の病院です。全国の動物病院の傾向をそのまま表すものではありません。
毎日の暮らしで続けるコツ
練習を毎日の暮らしに組みこむ例
特別な時間をとらなくても、ふだんの暮らしの中で練習できます。
| 場面 | やること |
|---|---|
| 朝・夜のごはん | 器をキャリーの中に置いて食べさせる |
| 家族がくつろぐ時間 | 長持ちするおやつを中で与え、扉を開けたままそばで過ごす |
| 来客のとき | 落ち着ける場所としてキャリーを使う(扉は開けたままでもよい) |
| 散歩の前 | キャリーで玄関の外まで出て、そこから歩いて散歩に行く |
| 寝るとき | 中で寝たがる子は、そのまま寝床として使う |
シニア犬・多頭飼いのとき
- シニア犬:足腰が弱ってくると、段差のある入口をまたぐのが負担になることがあります。入口が低いもの、上が開くものなど、出入りしやすい形を選び、中に滑りにくいマットを敷きましょう
- 多頭飼い:1頭ずつ自分のキャリーで練習します。避難や病院のときに、全員を一度に運べるかも考えておきましょう(大人1人で何頭運べるか、家族の分担など)
うまくいかないときは
入るのをいやがる
ステップを戻して、キャリーを「置いてあるだけ」の状態からやり直します。おやつを入口のすぐ手前に置くところまで戻ってもかまいません。キャリーの種類(布製・ハードタイプ、上が開くもの・前だけ開くもの)を変えると、すんなり入る子もいます。
中で鳴き続ける
扉を閉める時間が長すぎたのかもしれません。数秒に戻し、静かにしている間に開ける練習をくり返します。鳴いているときに声をかけたり開けたりすると、鳴くことを覚えてしまうことがあります。
持ち上げると暴れる
ステップ5を細かくします。持ち上げるのは1cmだけ、1秒だけ、から始めましょう。キャリーの底がたわむと不安になる子もいるので、底板がしっかりしたものを選ぶ、底にタオルを厚めに敷く、などの工夫もあります。
よだれや震えが出る
こわがっているサインのことがあります。その日の練習はやめ、もっと手前のステップに戻してください。乗り物に乗るとぐったりする、吐いてしまうなど、体調が気になるときは、動物病院に相談しましょう。
自分たちだけで進めるのが難しいときは、ドッグトレーナーやしつけ教室に相談するのもひとつの方法です。
よくある質問
Qどのくらいで慣れますか?
犬によってかなり違います。数日で平気になる子もいれば、何週間もかかる子もいます。あせらず、犬のペースに合わせてください。
Q子犬と成犬、どちらが慣れやすいですか?
子犬のうちから慣らしておくと楽な場合が多いですが、成犬でも少しずつ進めれば慣れることはよくあります。年齢よりも、こわい思いをさせないことが大切です。
Q中型犬・大型犬でもキャリーの練習は必要ですか?
電車に持ちこめる大きさでなくても、車での移動、避難所、病院での入院などでクレートやケージを使うことがあります。体に合ったクレートで同じ手順の練習をしておくと安心です。
Qキャリーの中におもちゃを入れたままでいいですか?
飲みこんだり壊したりしないものなら、安心材料になります。移動中は、かじって壊れやすいものはさけましょう。
Q練習用と移動用で、キャリーを分けてもいいですか?
できれば同じものがおすすめです。慣れたキャリーそのものが「安心できる場所」になるからです。分けるときは、移動用でもステップ1から短く練習しておきましょう。
参考にした情報
- 環境省「災害、あなたとペットは大丈夫?人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>」(ペットのしつけと健康管理、ケージに慣らす手順)
- 横浜市「災害時のペット対策(震災)」(一時飼育場所ではペットはケージで飼育)
- JR東日本「新幹線や電車に犬や猫を持ち込むには『手回り品きっぷ』が必要!」
- 犬ふぁん 施設データの集計(動物病院の診療時間、2026年10月10日時点)
内容は2026年10月に確かめたものです。
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